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旭川地方裁判所 昭和36年(ワ)208号 判決

原告 大泉対山

被告 旭川商工信用組合

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告は原告に対し金三〇〇、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日から右完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決および担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、「(一)被告は昭和二七年四月三日設立登記をした中小企業等協同組合法に基く信用協同組合である。(二)原告は昭和二六年八月被告の設立を企て、じ来その発起人の一人として費用を支出して右設立に尽力した。しかして右費用として原告の支出したものは、人件費八〇、〇〇〇円、旅費八、〇〇〇円、事務用品費二〇、〇〇〇円、通信費一〇、〇〇〇円、光熱費三〇、〇〇〇円、創立総会開催費一〇、〇〇〇円、設立準備諸会合費五〇、〇〇〇円、役員就任披露宴会費五〇、〇〇〇円、交通費一五、〇〇〇円および雑費その他三〇、〇〇〇円の合計三〇三、〇〇〇円である。(三)原告は、昭和二七年二月五日の発起人会において創立総会に提出すべき設立費用負担の承認に関する議案が審議された際、自ら支出した前記費用中金三〇〇、〇〇〇円の計上を求めたところ、右発起人会は設立費用については北海道知事の行政上の指導方針として金五〇、〇〇〇円を限度としそれ以上は認められないことになつているとの理由で、原告が支出した前記費用は組合が成立し事業を開始した後別途協議のうえ支払うことを約した。(四)被告の創立総会は同年三月一日開かれ設立費用負担の承認に関する議案については金五〇、〇〇〇円が計上議決され、右は営業開始に必要な帳簿類、印刷物の購入費および登記費用等の支出に充てられることとなつた。(五)原告は同年七月頃被告組合事務所において理事会が開催された際、前記原告支出の設立費用の支払を請求したところ、右理事会は原告に対し右設立費用の支払義務あることを認め、被告において組合員の出資金に対し配当ができるようになつたときその支払をすることを約した。(六)被告は右出資金に対し昭和三四年度において年六分、昭和三五年度おいて年七分の割合による配当をなすに至つた。そこで、原告は被告に対し、原告支出の前記設立費用中金三〇〇、〇〇〇円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日から右完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」と述べ、被告の抗弁に対し、「原告の被告に対する設立費用の請求は前記のとおり停止条件付債権に基くものであり、右条件は昭和三四年に成就したものであるから未だ消滅時効は完成していない。」と述べた。〈証拠省略〉

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、「原告主張の請求原因事実中、(一)および(六)は認め、その余は否認する。」と述べ、抗弁として、「仮に、被告において原告に対しその主張の費用の支払義務があるとしても、右は昭和三二年四月三日の経過を以て被告組合成立の日である昭和二七年四月三日から五年を経過したこととなり消滅時効が完成しているものであるから、右時効を援用する。」と述べた。〈証拠省略〉

理由

中小企業等協同組合法に基く信用協同組合の設立に要した費用については、同法中に、株式会社における商法第一六八条第一項第七号のような規定および同法条を準用する規定はない。しかしそうだからといつて、右中小企業等協同組合法の各法条から考えて右費用について組合の無制限な負担を許しているものとは解し得ず、却つて右費用については右商法の規定を類推適用したうえ中小企業等協同組合法第二七条および同条の二によつて、発起人の過大な見積や濫費不正等によつて組合の財産的基礎が危くなることを防止するため定款に記載したうえ創立総会における議決を経て行政庁の認可を得たものについてだけ組合の負担とし、その余は支出した発起人自らの負担に帰せしめているものと解すべきであるから、たとえ、後日組合理事会において右超加費用につきこれを支出した発起人に支払うべきことを議決して右発起人にその旨約諾したとしても、これらはいずれも前記定款の記載創立総会の議決および行政庁の認可を潜脱する目的でなした脱法行為にして無効のものというべく、右発起人は右約定を以て組合に対し右超加費用の請求はなし得ないものといわねばならない。してみると、原告の請求はその主張事実の有無につき判断するまでもなく失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高田政彦)

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